納骨堂は、一昔前までは身寄りのない人の遺骨や遺骨の一時預かり場所として利用されてきましたが、最近では参拝しやすいように工夫された小スペースながらもお墓として立派な機能をもつ施設が首都圏を中心に急増してきています。そこで悩むのが、従来型の石のお墓と納骨堂どちらを選んだらよいのか?ということ。今回はお墓と納骨堂のメリットデメリットを比べてみて、どんな人が納骨堂に向いているのかまたどんな人がお墓に向いているのかタイプ別に検証してみました。
お墓不足のなか東京に急増する納骨堂
納骨堂は全国的に見ると昭和30年代から増加して依頼、近年では約12,000箇所で横ばい状態でありますが、首都圏に限ってみると増えてきています(参考文献:『宗教関連統計に関する資料集』平成27年3月文化庁文化部宗務課P89)。
また東京での推移を見ると平成8年度は238施設であったのに対し、平成27年度には397施設と大きく増加しています(参考文献:『衛生行政報告例』厚生労働省)
この背景には、都心など交通に便利な場所では地価が高く従来型の墓地を建立することが難しく、また墓自体も多額な費用がかかることが影響していることから、縦長のビル型施設を作ることでたくさんの遺骨を安置することが可能になる納骨堂に注目が集まり、普及が進んでいると考えられるでしょう。
お墓と納骨堂との違い
納骨堂は埋蔵施設ではない
納骨堂とは遺骨を収蔵する施設のことを指し、遺骨を土に埋めないことがお墓との大きな違いです。しかし納骨堂を開設するにはお墓と同様に都道府県知事の許可を受け、その施設を墓地として認めてもらう必要があります。つまり埋蔵施設ではないものの、お墓と認められた場所であることは間違いないため、お墓の一種であるといえます。
納骨堂の収蔵形態は7タイプとバラエティー豊か
納骨堂の収蔵形態は細かく分けるとおおよそ7タイプあります。
- 1.ロッカー式:ロッカーのように個別の収蔵庫が縦横に並びます
- 2.棚式:棚に骨壷を並べて収蔵します
- 3.位牌式:仏様の脇や周りにお位牌を立て、遺骨の収蔵スペースは別に設けることが多い形式です
- 4.墓石式:墓石を室内に建てるため屋内墓地とも呼ばれます
- 5.仏壇式:上段は位牌が安置できる仏壇で、下段は遺骨を納める場所になります
- 6.機械式:ICカードなどを操作することで、遺骨が参拝口に運ばれてきます。遺骨自体は安置所にまとめられています
- 7.合葬・合祀式:永代供養塔の中に骨壺から遺骨を出して他の人の遺骨とあわせて埋葬します
納骨堂のメリット
納骨堂はお墓に比べて安価である
従来の石のお墓を購入する場合、墓地の永代使用料+年間管理料+墓石+工事費などの費用がかかり、そのうち100万~200万円ほどが墓石代にかかっているようです。2015年7月に行われた墓石代の全国平均は164.6万円という調査結果も出ています(参考文献:全優石『2015年版お墓購入者アンケート調査』より)墓地の永代使用料と墓石代を合わせると、総額200万円を上回ることは珍しくありません。
それに対し、納骨堂は墓石式などタイプによって異なりますが、基本的には墓石代がかからず墓地の使用料のみで費用が済みます。墓石を一から自分好みに作ることや選ぶことはできませんが、納骨堂の場合は総額およそ100万円以下になることも多く、費用は安価です。
納骨堂は交通至便な場所に多く墓参りがしやすい
従来の墓地は広い土地を必要とするため敷地を確保できる郊外にあることが多く、交通手段が限られてしまうことが目立ちました。しかし主に首都圏に建設されている納骨堂は、駅近など交通至便な場所にあり、電車やバスなどを使い気軽にお墓参りに行くことができます。
天候に左右されずに墓参りがしやすい
納骨堂は屋内施設ですので、参拝をしている間、雨風に打たれることも太陽がギラギラと照りつけることもなく快適にお参りができます。もちろん、故人の遺骨が雨風にさらされることもありませんので、空調管理されたなか、大切に安置することができます。
納骨堂なら遺骨の引越しが楽
従来のお墓から改葬を行う場合、カロートから骨壷を取り出す際にも、お墓を取り壊す場合にも石材屋さんや業者に来てもらう必要があり作業代がかかります。しかし納骨堂はそもそも骨壷に入ったまま保管しているので(合葬・合祀式は除く)引越しが簡単です。
さて、納骨堂にもデメリットが当然ながらあります。今度は納骨堂のデメリットについても考えて見ましょう。
納骨堂のデメリット
納骨堂には遺骨の収蔵期限がある
納骨堂の多くは永代供養を前提としており、収蔵期限があるものがほとんどです。そのため、13年や33年など契約満了時には遺骨が合葬されてしまいます。
遺骨を前にしてお参りできない場合も
主に位牌式の納骨堂にみられるのですが、参拝できる場所と遺骨を収蔵している場所が別々になっている場合があります。そのような形式の場合、特別な法要以外では直接遺骨を前にして拝むことができないこともあり、お参りをしても寂しさを感じてしまうかもしれません。
納骨堂では線香や生花などのお供え、水かけが禁止
屋内施設であるがゆえ、納骨堂の場合は防火上の理由から参拝時に線香を炊くことができなかったり、生花や故人が生前好きだったお菓子などを供えたりすることができない納骨堂もあります。
合葬・合祀をされてしまった遺骨は取り出せない
納骨堂に限ったことではありませんが、遺骨を収蔵しておく期限が過ぎ合葬されてしまった場合、特定の遺骨を取り出すことは不可能になります。故人の遺骨を目の前にして参拝できるなくなることはもちろん、遺骨の引っ越しなどもできなくなります。
ではお墓のメリットデメリットについても見ていきましょう。
お墓のメリット
家族代々利用できる
ほとんどの石のお墓は永代使用が前提となっているため、墓石と永代使用権を購入後、年間の維持管理費用を納め続けていれば、子々孫々までお墓を引き継ぐことができます。また、墓石は非常に頑丈であり、ほとんどのことでは壊れません。半永久的に家族のシンボルとしてその場に残すことが可能です。
墓石を一から選ぶことができる
納骨堂では遺骨を収蔵する場所のデザインなどがほとんど決まっており、選ぶことができにくくなっています。しかし石のお墓を一から建てる場合、石材屋と相談しながら自分らしい材質の石やデザインを選ぶことができます。
伝統的な儀礼が行える
従来の石のお墓では、遺骨が埋葬されている場所に線香を炊いたり、供花やお供えをしたり通常の伝統的なイメージの儀礼を行えます。また墓石の下に遺骨を埋葬するため、故人と対面した気持ちでお参りすることができるでしょう。
お墓のデメリット
墓石の費用が高い
墓石の唯一・最大のデメリットといっても過言ではないのが、高額な費用です。上述しましたが、従来の石のお墓は墓地使用代(永代使用権)のほかに墓石代、工事代、さらに維持管理費用がかかります。初期費用だけでも200万円は下らないため、よほど裕福な家庭でなければやはり購入には慎重になります。ちなみに、東京で石のお墓を購入する場合、500万以上の総額となってしまうことも珍しくありません。
お寺との付き合いが欠かせない
霊園などに墓地を建てた場合を除き、先祖代々受け継いできたお墓はたいてい特定のお寺の檀家となっていることが多くあります。檀家となっている場合、年に数度の法要行事やお寺からの修繕費の寄付金を求められることもあります。
お墓と納骨堂、どんな人がお墓向き?どんな人が納骨堂向き?
では具体的にどんな人がお墓向きでどんな人が納骨堂向きなのかタイプ別に考えてみましょう。
お墓向きな人はこんなタイプ
- 子孫に代々受け継ぐための立派なお墓を残したい
- 合葬されることなく供養を行ってほしい
- 墓前で線香を炊いたり、供花やお供えをしたり伝統的な儀礼を尊重したい
納骨堂向きな人はこんなタイプ
- お墓を継承してくれる子孫がいない
- 都心に住んでいるが自宅の近くにお墓が欲しい
- 費用をできるだけ抑えたい
- 高齢になって足腰が弱り、山坂や段差のある斜面に建つようなお墓参りが難しい
- 先祖代々の墓が故郷にあるが分骨や改葬をして自宅近くにお墓を持ちたい
お墓選びに「費用」と「自宅からの近さ」は大事なポイント
さいたま市が市民に行ったアンケート(参考文献:『さいたま市墓地に関する市民意識調査報告書』平成27年3月さいたま市保健福祉局)によると墓地を新しく選ぶ際重視する項目は「お墓の価格、維持管理費」が第1位ですが第2位に「自宅からの近さ」を優先する人が多いのが実態です。「自宅からの近さ」については車や公共交通機関で30分未満の場所に墓地を購入している人が実際多いようで、年齢が上がれば上がるほど近さが重要視されているようです。
あなたはお墓と納骨堂どちらに向いているタイプでしたか?ご自分の考えのみだけでなく、夫婦、親子兄弟で話し合い特に墓守を今後お願いしたい次世代がいる場合は次世代の意見も聞き取ってご家族にとってベストな選択ができるといいですね。